コーヒーを飲んだ後に、手が震える、心臓がドキドキする、なぜか落ち着かない――そんな経験をしたことはありませんか。
こうした状態は一般に「カフェイン酔い」と呼ばれることがありますが、医学的な正式名称ではありません。カフェインを短時間に多く摂った場合や、カフェインに敏感な人では、動悸や震え、不安感、吐き気などの症状が現れることがあります。
厚生労働省も、カフェインを過剰に摂取した場合には、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠、下痢、吐き気などが起こる可能性があると注意喚起しています。[1]
この記事では、一般に「カフェイン酔い」と呼ばれる症状がなぜ起こるのか、症状が出たときに家庭でできること、水分補給をどう考えればよいのか、そして医療機関への相談が必要なケースについて、公的機関や医学資料をもとに整理します。
カフェイン酔いとは?起こりやすい症状を知っておこう

「カフェイン酔い」という言葉に厳密な医学的定義はありません。
一般的には、カフェインを摂ったあとに起こる不快な身体症状や精神症状を指して使われています。摂取量が非常に多い場合には「カフェイン中毒」「カフェイン過量摂取」として医療的な対応が必要になることもあります。
手の震え・動悸・吐き気などが現れることがある
カフェインを摂りすぎたときに起こり得る症状には、次のようなものがあります。
- 手や指の震え
- 心拍数の増加
- 動悸
- 落ち着かなさ
- 不安感
- 吐き気
- 胃の不快感
- 頭痛
- めまい
- 眠れない
FDA(米国食品医薬品局)も、カフェインを摂りすぎた際の症状として、心拍数増加、動悸、高血圧、不眠、不安、震え、胃の不調、吐き気、頭痛などを挙げています。[2]
カフェインは摂取後すみやかに吸収され、血中濃度は一般に摂取後15分~2時間ほどの間にピークになります。[3]
そのため、コーヒーやエナジードリンクなどを短時間にまとめて摂取すると、その後比較的早い段階で症状を感じることがあります。
不安感や落ち着かなさが強くなる場合もある
カフェインは中枢神経を刺激する作用があります。
適度な量では眠気を感じにくくしたり、注意力を高めたりしますが、人によっては少ない量でも、
- ソワソワする
- じっとしていられない
- 緊張感が強くなる
- 不安を感じる
- 眠れなくなる
といった反応が出ることがあります。
MedlinePlusでは、カフェインの過量摂取による症状と急性の不安反応は非常によく似ることがあると説明しています。[4]
そのため、「不安感があるから精神的な問題」「コーヒーを飲んだから必ずカフェインの問題」と単純に判断することはできません。
重症になると不整脈やけいれんが起こることもある
非常に大量のカフェインを短時間に摂取した場合は、単なる「コーヒーを飲みすぎて気持ち悪い」という範囲を超えることがあります。
日本中毒情報センターでは、カフェインの過量摂取によって、ふるえ、悪心・嘔吐、頻脈などが起こり、さらに大量になると不整脈やけいれんを起こす可能性もあるとして注意を呼びかけています。[5]
特に注意したいのが、
- 眠気防止薬
- カフェイン錠剤
- 高濃度のカフェインサプリメント
- エナジードリンク
- プレワークアウト系サプリメント
などです。
コーヒーとこれらを併用すると、本人が思っている以上にカフェイン摂取量が多くなることがあります。
カフェイン酔いが起きる仕組みと個人差

同じ量のコーヒーを飲んでも、「全く平気」という人もいれば、「1杯で動悸がする」という人もいます。
これは、カフェインへの感受性や代謝速度に大きな個人差があるためです。
カフェインはアデノシン受容体の働きを妨げる
カフェインの代表的な作用の一つが、脳などにある「アデノシン受容体」の働きを妨げることです。
アデノシンは眠気などに関係する物質ですが、カフェインが受容体に作用することで、眠気を感じにくくなり覚醒作用が現れます。
一方、大量のカフェインを摂取すると、中枢神経系や循環器系への刺激も強くなり、頻脈、震え、不安感などにつながることがあります。カフェイン中毒では、カテコールアミンの作用などを通じて心拍数や血圧などに影響することもあります。[6]
カフェインは主に肝臓のCYP1A2で代謝される
吸収されたカフェインの大部分は、肝臓で代謝されます。
中心的な役割を果たすのが「CYP1A2」という酵素です。[3]
カフェインの代謝速度には個人差があり、
- 遺伝的な違い
- 妊娠
- 喫煙
- 一部の医薬品
- その他の生活・身体条件
などによって変化します。[3]
健康な成人でも、カフェインの血中半減期は数時間程度ですが、個人差があります。
そのため、「○杯なら全員大丈夫」という基準を作ることはできません。
【カフェインの影響に個人差がある理由】
・カフェインの代謝速度が人によって違う
・体重によって同じ量でも体重あたりの摂取量が変わる
・普段からカフェインを飲んでいるかどうかでも反応が違う
・妊娠や薬の使用などによって代謝速度が変わる場合がある
食事をすると吸収がやや遅くなることがある
「空腹時にコーヒーを飲むとカフェイン酔いになる」と説明されることがあります。
食事と一緒に摂取した場合、カフェインの吸収速度が遅くなることは報告されています。[3]
そのため、空腹時に濃いコーヒーを短時間で飲んだ場合などに、刺激を強く感じる人はいるでしょう。
ただし、空腹そのものがカフェイン中毒を起こすわけではありません。
もっと重要なのは、
- カフェインの摂取量
- 短時間にまとめて摂取していないか
- 本人のカフェイン感受性
- 薬やサプリメントなど他のカフェイン源
です。
カフェイン酔いを感じたときに自分でできること

軽い震えや落ち着かなさなどが出たときには、まず追加のカフェイン摂取を止めることが基本です。
ただし、症状が強い場合や大量摂取が疑われる場合には、自宅で対処しようとせず医療機関や中毒110番へ相談してください。
まず追加のカフェインを摂らない
最も重要なのは、それ以上カフェインを追加しないことです。
症状が出ているにもかかわらず、眠気対策としてさらにコーヒーやエナジードリンクを飲むと、症状が強くなる可能性があります。
コーヒーだけでなく、
- 緑茶
- 紅茶
- エナジードリンク
- コーラ
- チョコレート
- 眠気防止薬
- カフェイン入り鎮痛薬など
にも注意しましょう。
水分は普段どおり補給する。ただし「カフェインを流す」効果は期待しない
カフェインを摂りすぎたときに「大量の水を飲めばカフェインを薄めて排出できる」と説明されることがあります。
しかし、これは正確ではありません。
カフェインは体内に吸収された後、主に肝臓で代謝され、その代謝物が尿へ排出されます。摂取したカフェインのうち、そのままの形で尿中に排泄される量はごく一部です。[3][7]
そのため、
水を大量に飲んだからといって、すでに吸収されたカフェインが急速に排出されるわけではありません。
一方、喉が渇いている場合や通常の水分補給が不足している場合には、水を飲むこと自体は問題ありません。
吐き気があるときなどは一度に大量に飲まず、飲める範囲で少量ずつ摂りましょう。
「カフェイン酔いを治すために大量の水を飲む」のではなく、脱水を避けるための通常の水分補給と考えるのが適切です。
静かな場所で休み、無理に運動しない
動悸や震え、不安感などがある場合は、激しい運動などでさらに心拍数を上げるのは避け、落ち着ける場所で休みましょう。
不安感が強い場合には、ゆっくり呼吸することで気持ちが落ち着く場合があります。
ただし、呼吸法そのものがカフェインを分解したり中毒を治療したりするわけではありません。
胸の痛みや強い動悸などがある場合に「リラックスすれば治る」と考えて我慢するのは避けてください。
バナナやナッツでカフェインを中和できるわけではない
インターネットでは、
- バナナを食べる
- マグネシウムを摂る
- カリウムを摂る
- 牛乳やヨーグルトを食べる
といったカフェイン酔いの対処法が紹介されることがあります。
しかし、これらの食品が体内のカフェインを中和したり、カフェイン中毒を治療したりすることを示す十分な根拠はありません。
食欲があり、普段どおり食べられる状態なら軽い食事をしても構いませんが、「カフェインを抜くため」に特定の食品を無理に食べる必要はありません。
カフェイン酔いを防ぎながらコーヒーを楽しむ方法

カフェインの影響を受けやすいからといって、必ずしもコーヒーを完全にやめる必要はありません。
大切なのは、自分が実際にどの程度カフェインを摂っているのかを把握することです。
「1日400mg」は全員の安全上限ではない
FDAは、健康な成人の多くについて、1日400mg程度のカフェインは一般に健康への悪影響と関連しない量としています。[2]
EFSAも、健康な成人について、1日を通して摂取するカフェインが400mgまでであれば安全性上の懸念を生じないとしています。[8]
ただし、これは「400mgまでなら誰でも症状が出ない」という意味ではありません。
FDAも、体重、服用している薬、健康状態、カフェインへの感受性などによって、「多すぎる量」は人によって異なると説明しています。[2]
さらにEFSAでは、健康な成人でも一度に200mgまでを、単回摂取で安全性上の懸念を生じない目安としています。[8]
したがって、1日の合計が400mg以下でも、短時間にまとめて大量に摂ることは避けた方がよいでしょう。
普段飲んでいる飲み物のカフェイン量を確認する
厚生労働省が掲載している主な飲料のカフェイン量は次のとおりです。[1]
| 飲料 | カフェイン量の目安 |
|---|---|
| コーヒー(浸出液) | 60mg/100mL |
| インスタントコーヒー | 80mg/1杯(顆粒2g使用) |
| 紅茶 | 30mg/100mL |
| せん茶 | 20mg/100mL |
| ほうじ茶 | 20mg/100mL |
| ウーロン茶 | 20mg/100mL |
| 玄米茶 | 10mg/100mL |
| カフェインを多く添加した清涼飲料水 | 32~300mg/100mL |
特にカフェインを多く添加した清涼飲料水は、製品によって含有量に非常に大きな差があります。
缶やボトル1本あたりのカフェイン量を確認する習慣をつけておくと安心です。
コーヒーと水を一緒に飲んでもカフェインの吸収を防げるわけではない
コーヒーと一緒に水を用意すること自体は問題ありません。
口の中をリセットしたり、普段の水分摂取量を確保したりする意味では便利です。
一方で、
「コーヒーと水を交互に飲めばカフェインの吸収が遅くなる」
という効果が確立されているわけではありません。
カフェイン摂取量を減らしたい場合は、水を追加するよりも、
- コーヒー自体の量を減らす
- 小さいカップを選ぶ
- 2杯目をデカフェにする
- カフェイン含有量の少ない商品を選ぶ
といった方法の方が直接的です。
デカフェやカフェインレスを活用する
カフェインの刺激を受けやすい方には、デカフェやカフェインレスコーヒーも選択肢になります。
例えば、
- 朝だけ通常のコーヒー
- 午後はカフェインレス
- 夜はカフェインを含まない飲み物
といった使い分けをすると、コーヒーを楽しみながら1日の総カフェイン量を減らしやすくなります。
なお、カフェインレスコーヒーにも少量のカフェインが残っている場合があります。
カフェインに非常に敏感な方は、商品に記載されたカフェイン除去率や含有量を確認するとよいでしょう。
カフェイン酔いと思っても別の体調不良の可能性がある

震え、めまい、動悸、吐き気などは、カフェインを摂りすぎたときだけに起こる症状ではありません。
別の病気や体調不良でも似た症状が起こるため、すべてを「カフェイン酔い」と判断しないことが重要です。
不安発作・不整脈・低血糖などでも似た症状が起こる
カフェイン過量摂取の症状は、急性の不安反応ともよく似ています。[4]
そのほかにも、
- 不整脈
- 低血糖
- 脱水
- 甲状腺の異常
- 薬の副作用
- 他の刺激物の摂取
などでも、動悸や震え、めまいなどが起こる場合があります。
特に「いつものコーヒー量なのに突然強い症状が出た」「カフェインを摂っていないのに同じ症状を繰り返す」といった場合は、カフェインだけが原因とは限りません。
症状がある過量摂取は医療機関への相談を
日本中毒情報センターは、カフェインを含む飲料・サプリメント・医薬品などを過量摂取し、症状がある場合はすぐに医療機関を受診するよう案内しています。[5]
特に、
- 激しい、または治まらない動悸
- 胸の痛み
- 呼吸が苦しい
- 意識がもうろうとする
- けいれん
- 繰り返す嘔吐
- 異常な興奮や混乱
- 大量のカフェイン錠剤やサプリメントを摂取した
といった場合は、自宅で水を飲んで様子を見るだけにしないでください。
意識障害、けいれん、呼吸困難など緊急性が高い症状がある場合は119番への連絡を検討してください。
判断に迷ったら中毒110番へ相談できる
「どのくらい飲んだかわからない」「病院へ行くべきかわからない」という場合には、日本中毒情報センターの中毒110番に相談できます。
【日本中毒情報センター 中毒110番】
一般向け・365日24時間対応
大阪中毒110番:072-727-2499
つくば中毒110番:029-852-9999
相談する際は、摂取した製品名、カフェイン量、飲んだ量、時間、本人の年齢や体重、現在の症状などがわかると状況を伝えやすくなります。
日本中毒情報センターでは、カフェインを含む飲料やサプリメント、眠気防止薬などの過量摂取に関する相談を受け付けています。[5][9]
薬やサプリメントに含まれるカフェインにも注意する
カフェインは飲み物だけから摂取するとは限りません。
日本中毒情報センターでは、
- 眠気防止薬
- 総合感冒薬
- 痛み止め
など、カフェインを含む医薬品との併用にも注意するよう呼びかけています。[5]
また、海外製のサプリメントやプレワークアウト製品などには多量のカフェインが入っていることがあります。
コーヒーをそれほど飲んでいないのに動悸や震えが出る場合には、食品・飲料だけでなく、使用している医薬品やサプリメントの成分表示も確認してみましょう。
カフェイン酔いの症状と対処法についてのまとめ
一般に「カフェイン酔い」と呼ばれているのは、カフェインを摂取したあとに起こる動悸、震え、落ち着かなさ、不安感、吐き気などの不快な症状です。
カフェインへの反応には大きな個人差があるため、「何杯飲んだら必ず起こる」と決めることはできません。
軽い症状を感じた場合には、まず追加のカフェイン摂取をやめ、落ち着いた場所で休むことが基本です。
水分が不足している場合には通常の範囲で水を飲んでも構いませんが、大量の水を飲んだからといって、すでに吸収されたカフェインが急速に体外へ排出されるわけではありません。
また、バナナ、ナッツ、ヨーグルト、ミネラルなどにカフェインを中和する作用が確認されているわけでもありません。
予防するためには、
- 自分が飲んでいる飲料のカフェイン量を知る
- 短時間に大量摂取しない
- エナジードリンクやカフェイン入り医薬品との併用に注意する
- 症状が出る量を無理に飲まない
- 必要に応じてデカフェやカフェインレスへ切り替える
といった方法が現実的です。
健康な成人についてFDAやEFSAは1日400mg程度までを一つの目安としていますが、これは誰にとっても症状が出ない保証ではありません。また、EFSAでは1回の摂取について200mgまでを安全性上の懸念を生じない目安としています。[2][8]
自分が100mg程度でも動悸を感じるのであれば、「400mgまで飲める」と考える必要はありません。自分が不快な症状を感じない範囲まで減らすことが大切です。
一方、強い動悸、胸痛、呼吸困難、意識の変化、けいれん、繰り返す嘔吐などがある場合や、カフェイン錠剤・サプリメントなどを大量に摂った場合には、「カフェイン酔い」と軽く考えず、速やかに医療機関や中毒110番へ相談してください。
参考文献・公的機関
- 厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」
カフェインの過剰摂取による症状や、コーヒー・茶・カフェイン含有清涼飲料水などのカフェイン量が掲載されています。
厚生労働省 - U.S. Food and Drug Administration(FDA)「Spilling the Beans: How Much Caffeine is Too Much?」
健康な成人の多くについて1日400mg程度を一般に悪影響と関連しない量として紹介するとともに、カフェインを摂りすぎた際の症状や個人差について説明しています。
FDA公式サイト - 「Caffeine – Essentials for anaesthesiologists: A narrative review」
カフェインの吸収、血中濃度がピークになる時間、半減期、CYP1A2による代謝、食事・妊娠・喫煙・医薬品などの影響についてまとめたレビューです。
PubMed Central - MedlinePlus Medical Encyclopedia「Caffeine overdose」
カフェイン過量摂取による頻脈、震え、吐き気、睡眠障害、けいれんなどの症状や、急性不安反応との類似について説明しています。
MedlinePlus - 公益財団法人 日本中毒情報センター「カフェインを含む食品や眠気防止薬の過量摂取に注意しましょう」
エナジードリンク、サプリメント、カフェイン入り医薬品などの短時間での過量摂取や、症状が出た場合の受診について注意喚起しています。
日本中毒情報センター - NCBI Bookshelf / StatPearls「Caffeine Toxicity」
カフェイン過量摂取時の作用機序、症状、重症例でみられる不整脈・けいれんなどについてまとめられています。
NCBI Bookshelf - 「Caffeine in Kidney Stone Disease: Risk or Benefit?」
カフェインの吸収・代謝・排泄についてまとめたレビューで、大部分が代謝され、未変化のカフェインとして尿中に排泄される量はわずかであることを説明しています。
PubMed Central - European Food Safety Authority(EFSA)「Caffeine」
健康な成人について、単回200mgまで、1日を通して400mgまでの摂取は安全性上の懸念を生じないとしています。
EFSA公式サイト - 公益財団法人 日本中毒情報センター「中毒110番・電話サービス」
急性中毒事故が発生した際の一般向け相談窓口です。365日24時間対応しています。
日本中毒情報センター
※この記事は、公的機関や医学文献などで公開されている一般的な情報をもとにまとめています。症状の原因を自己判断するためのものではありません。強い症状がある場合、大量のカフェインを摂取した場合、基礎疾患や服薬がある場合などは、医療機関・薬剤師・日本中毒情報センターなどへ相談してください。



