「コーヒーを飲むとトイレが近くなるから、水分補給にはならない」と聞いたことはありませんか。
確かに、コーヒーに含まれるカフェインには尿量を増やす作用があります。そのため、「飲んだコーヒー以上の水分が尿として出てしまうのでは?」と心配になる方もいるでしょう。
しかし、現在までの研究を見ると、通常の範囲で飲むコーヒーまで「水分補給にならない」と考える必要はなさそうです。
特に、普段からコーヒーを飲んでいる健康な成人を対象とした研究では、適度なコーヒー摂取によって、水を飲んだ場合より水分状態が悪化するとは確認されませんでした。[1]
ただし、「コーヒーは水と完全に同じ」「いくら飲んでも問題ない」という意味ではありません。カフェインへの反応には個人差があり、摂取量や飲む時間にも注意が必要です。
この記事では、コーヒーの利尿作用と水分補給の関係について、研究や公的機関の情報をもとにわかりやすく整理します。
コーヒーの利尿作用で水分補給にならないというのは本当?

結論から言えば、「コーヒーを飲むと水分補給にならない」と一律に考えるのは適切ではありません。
カフェインには利尿作用がありますが、コーヒーそのものには多くの水分が含まれています。
そのため、「尿が多少増える」という事実だけでなく、飲料として体内に入ってくる水分量とのバランスを見る必要があります。
カフェインには確かに利尿作用がある
カフェインに利尿作用があること自体は間違いではありません。
カフェインは体内でアデノシン受容体の働きを妨げます。腎臓ではこの作用などによって、ナトリウムや水分の排出が増え、尿量が増えることがあります。[2]
ただし、その作用の大きさはカフェイン量や普段の摂取習慣などによって異なります。
特に、普段ほとんどカフェインを摂取していない人が、一度に比較的多くのカフェインを摂った場合には、一時的な尿量増加が起こりやすいとされています。
「尿が増える=脱水する」とは限らない
ここで重要なのが、
尿量が増えることと、飲んだ水分以上の水を失って脱水状態になることは同じではない
という点です。
カフェインと水分バランスについて調べた研究レビューでは、普段カフェインを摂取していない人が250〜300mg以上といった比較的多い量を一度に摂ると、一時的に尿量が増える可能性があるとしています。
一方、一般的な飲料に含まれる程度のカフェインを摂取した場合、飲料として摂った水分以上の水分を失うことを裏付ける十分な証拠はないとまとめられています。[3]
つまり、
「コーヒーを飲んだら、その分以上の水が体から出ていくので水分補給にはならない」という単純な考え方は、現在の研究とは一致しません。
普段からコーヒーを飲む人では利尿作用が小さくなる可能性もある
カフェインの作用には「慣れ」が生じることがあります。
過去の研究レビューでも、カフェインを日常的に摂取している人では、利尿作用が小さくなる傾向が報告されています。[3]
そのため、
- 普段ほとんどコーヒーを飲まない人
- 毎日コーヒーを飲んでいる人
- 一度に大量のカフェインを摂る人
- 少量ずつ飲む人
では、同じコーヒーでも体の反応が異なる可能性があります。
「コーヒーを飲むとすぐトイレに行きたくなる」という人がいる一方で、あまり変化を感じない人がいるのも不思議ではありません。
研究ではコーヒーと水の水分補給効果をどう比較している?

コーヒーと水分補給の関係を考えるうえで、よく引用される研究がいくつかあります。
特に有名なのが、2014年に発表されたコーヒーと水を直接比較した研究です。
2014年にコーヒーと水を直接比較した研究
2014年、英国バーミンガム大学のKillerらは、普段から1日3〜6杯程度のコーヒーを飲んでいる男性50人を対象に、コーヒーと水を比較する研究を行いました。[1]
参加者は、
- 1日4回、200mLずつコーヒーを飲む条件
- 同じ量の水を飲む条件
をそれぞれ3日間行いました。
コーヒー条件で摂取したカフェイン量は体重1kgあたり4mgでした。
研究では、
- 総体水分量
- 体重
- 24時間尿量
- 尿の浸透圧
- 血液中の水分状態を示す指標
などが測定されています。
その結果、コーヒーを飲んだ期間と水を飲んだ期間との間で、水分状態を示す主要な指標に有意な差は確認されませんでした。[1]
研究者は、普段からカフェインを摂取している男性の場合、適度なコーヒー摂取は水と似た水分補給効果を持つ可能性があるとしています。
この研究だけで「誰でも水と同じ」とは言えない
一方、この研究には確認しておきたい条件があります。
対象となったのは、
- 健康な男性
- 50人
- 普段からコーヒーを飲んでいる人
です。
そのため、
「女性でもまったく同じ」
「カフェインを普段飲まない人でも同じ」
「大量に飲んでも同じ」
とまでは、この研究から判断できません。
健康情報の記事では、研究結果だけでなく、どのような人を対象にした研究なのかまで確認することが大切です。
飲料水補給指数(BHI)の研究でもコーヒーと水に大きな差はなかった
2016年には、飲み物ごとの短時間の水分保持能力を比較する「Beverage Hydration Index(BHI)」についての研究が発表されています。[4]
研究では、健康な男性72人を対象に、水やコーヒー、紅茶、牛乳、経口補水液、スポーツドリンクなど13種類の飲み物が比較されました。
参加者は1Lの飲料を30分間で摂取し、その後4時間の尿量が測定されています。
その結果、経口補水液や牛乳では水より尿量が少なく、水分が体内に残りやすい結果となりました。
一方、
コーヒーを飲んだ後の4時間の尿量は、水を飲んだ場合との間に統計的な差がありませんでした。[4]
| 飲料 | 研究で確認された傾向 |
|---|---|
| 水 | 比較の基準 |
| コーヒー | 4時間尿量は水と有意差なし |
| 紅茶 | 4時間尿量は水と有意差なし |
| 経口補水液 | 水より尿量が少なく、水分保持が高かった |
| 牛乳 | 水より尿量が少なく、水分保持が高かった |
ただし、この研究も「短時間に1L飲む」という実験条件です。
普段の生活ですべての飲み物が同じ結果になることを保証するものではありません。
公的機関もコーヒーなどの飲料を水分摂取に含めている

研究だけでなく、公的機関の資料でも、カフェインを含む飲み物が水分摂取に含まれるという考え方が示されています。
米国National Academiesの考え方
米国のNational Academiesがまとめた水分摂取に関する資料では、カフェインを含む飲料に一時的な利尿作用がみられる場合があるものの、こうした飲料も総水分摂取量に含まれるとしています。[5]
つまり、
「コーヒーを200mL飲んでも水分摂取量は0mL」
という扱いをする必要はありません。
英国NHSでもコーヒーや紅茶は水分に含まれる
英国NHSの一般向け食生活ガイドでも、1日の水分摂取には、水だけでなく紅茶やコーヒーなども含められると説明されています。[6]
したがって、日常生活で適量のコーヒーを飲むのであれば、その水分まで無かったことにする必要はないと考えてよいでしょう。
ただし、水分補給をすべてコーヒーだけで済ませる必要もありません。
水やお茶、食事に含まれる水分など、さまざまなものから水分を摂るのが現実的です。
水分補給になるからといってコーヒーを大量に飲んでよいわけではない

ここは非常に重要です。
「コーヒーも水分補給になる」という話と、「カフェインを大量に摂取しても安全」という話は別です。
コーヒーには水分だけでなくカフェインも含まれています。
カフェインの摂りすぎには注意する
厚生労働省は、カフェインを過剰に摂取すると、
- めまい
- 心拍数の増加
- 興奮
- 不安
- 震え
- 不眠
- 下痢
- 吐き気
などが起こる可能性があると注意喚起しています。[7]
特に注意したいのが、コーヒーだけでなく、
- エナジードリンク
- 紅茶や緑茶
- カフェイン入り清涼飲料水
- カフェインを含むサプリメント
- 一部の医薬品
などからもカフェインを摂取する可能性があることです。
コーヒーの杯数だけでなく、1日に摂取するカフェイン全体を見る必要があります。
「1日400mg」は絶対的な上限ではなく一つの目安
FDAは、健康な成人の多くについて、1日400mg程度までのカフェイン摂取は一般に悪影響と関連しない量として紹介しています。[8]
EFSAも、健康な一般成人について1日400mgまでのカフェイン摂取は安全性上の懸念を生じないとしています。[9]
ただし、これは、
「毎日400mg飲んだ方がよい」
という意味ではありません。
厚生労働省は、日本では個人差が大きいことなどから、カフェインについて一律の耐容一日摂取量(ADI)は設定されていないと説明しています。[7]
【カフェイン量はコーヒーによってかなり違う】
厚生労働省の資料では、コーヒー浸出液の一例として100mLあたり60mgのカフェインが示されています。
ただし、豆の種類、粉の量、抽出方法、カップの大きさなどによって実際のカフェイン量は変わります。
そのため「○杯までなら必ず安全」と杯数だけで判断するより、カフェイン量と自分の体調を確認する方が適切です。
妊娠中やカフェインに敏感な人は別に考える
カフェインへの反応にはかなり個人差があります。
また、妊娠中・授乳中の方、カフェインに敏感な方、医薬品を服用している方などでは、一般的な健康成人とは異なる注意が必要になる場合があります。
EFSAでは、妊娠中・授乳中については1日200mgまでという目安を示しています。[9]
個別の事情がある場合は、一般的な「400mg」という数字だけで判断せず、医師や薬剤師などに相談してください。
夕方や夜のコーヒーは水分より睡眠への影響を考える

コーヒーが水分摂取に含まれるとしても、夜遅くまでカフェイン入りコーヒーを飲むのが適しているとは限りません。
カフェインには覚醒作用があるからです。
就寝6時間前のカフェインでも睡眠に影響した研究がある
2013年に発表された無作為化試験では、400mgのカフェインを
- 就寝直前
- 就寝3時間前
- 就寝6時間前
に摂取した場合が比較されました。
その結果、いずれの場合でもプラセボと比較して睡眠への影響が確認されています。[10]
ただし、この研究で使用された400mgは、コーヒー1杯としてはかなり多いカフェイン量です。
したがって、
「すべての人が必ず就寝6時間前から完全にカフェインを禁止すべき」
とまでは言えません。
一方、カフェインの影響を受けやすい人や、睡眠に悩んでいる人であれば、夕方以降は通常のコーヒーを減らし、デカフェなどに切り替える方法があります。
水分補給としてコーヒーを飲むときのポイント

普段の生活では、「コーヒーを水分として数えてよいか」を細かく計算する必要はありません。
いくつかのポイントだけ押さえておけば十分でしょう。
コーヒーだけに頼らず水も飲む
研究上、適量のコーヒーが直ちに脱水を引き起こすとは考えにくいものの、水分補給をすべてコーヒーだけで行う必要はありません。
水を基本にしながら、
- コーヒー
- お茶
- 牛乳
- 食事に含まれる水分
などを組み合わせると無理なく水分を摂取できます。
特に暑い環境や大量に汗をかく場面では、喉の渇きや発汗量などに合わせて十分な水分を摂ることが重要です。
コーヒーと一緒に水を用意するのは合理的
コーヒーを飲む際に水も一緒に用意する方法は、総水分摂取量を増やすという意味では使いやすい方法です。
ただし、
「水を一緒に飲めば体内のカフェイン濃度が薄まり、利尿作用が抑えられる」
といった効果が確立されているわけではありません。
コーヒーと水をセットにするメリットは、難しく考えず、
コーヒー以外からも自然に水分を摂りやすくなること
と考えるのがよいでしょう。
また、水を口に含むことでコーヒーの余韻をリセットしながら味の違いを楽しむこともできます。
大量に汗をかいたときはコーヒーだけで済ませない
運動時のカフェインについては、「カフェインを飲むと脱水する」というイメージほど大きな問題は確認されていません。
16研究をまとめたメタ解析では、カフェインによる尿量増加は安静時には小さいながら確認されたものの、運動中には明確ではありませんでした。[11]
そのため、運動前にコーヒーを飲んだからといって、それだけで脱水を心配する必要はなさそうです。
一方、大量に汗をかいている場面では、必要な水分量そのものが増えます。
コーヒーを飲むかどうかとは別に、水や状況に応じた電解質を含む飲料などから十分に水分を補うようにしましょう。
エスプレッソ・ドリップ・浅煎り・深煎りで利尿作用は変わる?

利尿作用を考える場合、コーヒーの種類そのものより、実際にどれだけカフェインを摂取したかを見ることが重要です。
「濃い味=カフェインが多い」とは限らない
エスプレッソは非常に濃い味がしますが、通常は1杯の量が少量です。
一方、ドリップコーヒーは濃度が低くても、大きなマグカップで飲めば総カフェイン量が多くなる場合があります。
そのため、
味の濃さだけではカフェイン摂取量を判断できません。
豆の量、抽出方法、抽出時間、出来上がったコーヒーの量などによって変わります。
浅煎りと深煎りも単純には比較できない
「浅煎りの方がカフェインが多い」「深煎りになるほどカフェインがなくなる」と説明されることがありますが、実際にはそれほど単純ではありません。
焙煎度によるカフェイン量を調べた研究では、焙煎条件や抽出条件によって結果が異なっています。[12]
同じ抽出条件では深煎りの方が低いカフェイン濃度となった研究もありますが、別の条件で比較すると結果が変わることもあります。
また、コーヒー豆の種類や使用重量、抽出量などの影響も受けます。
したがって、
利尿作用を気にしている場合、「浅煎りか深煎りか」だけで判断するより、飲む量やカフェイン量そのものを見る方が実用的です。
カフェインを減らしたいならデカフェも選択肢
カフェインの影響を抑えながらコーヒーを楽しみたい場合は、デカフェを利用する方法があります。
デカフェは完全な「カフェインゼロ」とは限りませんが、通常のコーヒーよりカフェイン量が大幅に少なくなっています。
FDAによれば、デカフェコーヒーでも8液量オンス(約237mL)あたり2〜15mg程度のカフェインが含まれる場合があります。[8]
そのため、
- 夕方以降にもコーヒーを飲みたい
- 1日のカフェイン量を減らしたい
- カフェインに敏感
という方には使いやすい選択肢です。
コーヒーの利尿作用と水分補給についてのまとめ
「コーヒーは利尿作用があるから水分補給にならない」という話は、少し単純化されすぎています。
カフェインには確かに利尿作用があります。
しかし、コーヒーそのものにも水分が含まれており、現在までの研究では、適度なコーヒーを飲むことで、摂取した水分以上の水を失ってしまうとは考えにくいことが示されています。[1][3]
特に、普段からコーヒーを飲んでいる健康な成人男性を対象とした研究では、コーヒーと水で水分状態を示す指標に大きな違いは確認されませんでした。
また、別のBHI研究でも、コーヒー摂取後の4時間尿量は水と有意差がありませんでした。[4]
したがって、普段飲んでいるコーヒーを「水分としてまったくカウントできない」と心配する必要はないでしょう。
一方で、
- 大量のカフェインを一度に摂らない
- カフェインへの反応には個人差がある
- 睡眠に影響する時間帯には注意する
- 大量に汗をかくときはコーヒーだけに頼らない
- 妊娠中や持病・服薬がある場合は個別に確認する
といった点は覚えておきたいところです。
コーヒーは「水の代わりに何杯でも飲める飲料」と考える必要はありませんが、日常の水分摂取を構成する飲み物の一つとして考えることはできます。
自分のカフェインへの反応や生活時間に合わせながら、無理のない範囲で楽しむのがよいでしょう。
参考文献・公的機関
- Killer SC, Blannin AK, Jeukendrup AE. No evidence of dehydration with moderate daily coffee intake: a counterbalanced cross-over study in a free-living population. PLoS One. 2014;9(1):e84154.
PubMed - Marx B, et al. Mechanisms of caffeine-induced diuresis. Med Sci (Paris). 2016.
PubMed - Maughan RJ, Griffin J. Caffeine ingestion and fluid balance: a review. J Hum Nutr Diet. 2003;16(6):411-420.
PubMed - Maughan RJ, et al. A randomized trial to assess the potential of different beverages to affect hydration status: development of a beverage hydration index. Am J Clin Nutr. 2016;103(3):717-723.
PubMed - National Academies. Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate.
National Academies Press - NHS. Eating a balanced diet.
NHS - 厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」
厚生労働省 - U.S. Food and Drug Administration. Spilling the Beans: How Much Caffeine is Too Much?
FDA - European Food Safety Authority. Caffeine.
EFSA - Drake C, Roehrs T, Shambroom J, Roth T. Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before going to bed. J Clin Sleep Med. 2013;9(11):1195-1200.
PubMed - Zhang Y, et al. Caffeine and diuresis during rest and exercise: A meta-analysis. J Sci Med Sport. 2015.
PubMed - Caffeine content in filter coffee brews as a function of degree of roast and extraction yield.
PubMed
※この記事は、公開されている研究論文や公的機関の情報をもとに一般的な情報をまとめたものです。体調、妊娠・授乳、持病、服薬などによって適切なカフェイン摂取量は異なる場合があります。個別の健康上の判断については、医師・薬剤師などの専門家に相談してください。


